韓国の主要ニュースメディア「アジアトゥデイ」が、現在大きな混乱に包まれている統一教(世界平和統一家庭連合)について、内部関係者を招いて特別インタビューを行いました。番組では、文顯進会長の陣営を代表する人物として、家庭平和協会の金慶孝(キム・ギョンホ)会長と趙仁範(チョ・インボム)副会長が出演しました。今回は、その第3部の内容を要約してお伝えします。
金と権力が信仰を壊した―統一教会分裂16年の真実
■ 米国裁判所、「宗教的決定への司法介入を排除」
訴訟の発端は、文顯進氏が理事長を務めるUCI財団を統一教本部側が掌握しようとしたことにある。本部側は文顯進氏の経営責任を問題視し、財団の理事会を再編しようと試みたが、米国裁判所は「宗教的な争点に司法は介入できない」との判断を示し、最終的にUCI側の独立性を認めた。
この裁判は2000年代後半から続き、訴訟期間は実に14年。アメリカの司法当局が慎重な審理を続けてきた背景には、宗教団体内部の決定にどこまで国家が介入できるかという憲法上の問題があった。2025年7月3日に最終判決が下され、UCI側が完全勝訴した。
■ 「カリスマ中心の運動」から「制度中心の教団」へ
文鮮明総裁の生前、統一教の組織は極めて独特な構造を持っていた。総裁本人は各種法人や財団の「法的代表」には就任せず、個々の団体が独自の理事会を持ち、“カリスマ的リーダーを精神的中心とする横の連携構造”を維持していたという。
文顯進氏もその方針を踏襲し、組織運営の実務には関与しつつも、形式上は独立した理事会による運営を尊重していた。しかし文総裁の死後、教団内部では体制の一本化をめぐり対立が激化。特に四男の文國進氏や元秘書室長の金孝律(キム・ヒョユル)氏らが主導し、「中央集権的な教団支配構造」を築こうとしたことが、分裂の引き金になったとされる。
■ “家族間分裂”の具体的経緯
2012年以降、文顯進氏と母・韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁との間で意見の相違が表面化。韓総裁側は、統一教の中核財団である「宣教会財団」(のちの「孝情グローバル財団」)の理事長に自ら就任した。この動きは、文鮮明氏時代には一度も見られなかった異例の人事であり、教団内部に衝撃を与えた。
当時、文國進氏と金孝律氏が主導して、教団資金の流れ(キャッシュフロー)を統制下に置く仕組みを構築。長年透明に運営されてきたとされる資金システムを変更したことで、教団資産の集中化と権限の一極化が進んだとされる。この変更が後に韓総裁の資金管理をめぐる疑惑につながり、現在の法的問題(拘束・起訴)にも波及したと見られている。
■ 日本信者の献金が支えてきた世界活動
動画内では、統一教の資金構造についても触れられており、世界的な活動資金の大半は日本の信者による献金で支えられてきたことが明かされた。特に日本からの送金は、文総裁時代から統一教の国際的運動の生命線とされており、その資金ルートの透明性が長らく信頼を支えてきた。しかし、組織再編後は資金の流れが複雑化し、教団の統治構造をめぐる混乱が深まったという。
■ UCIへの資金遮断:韓国へ資金の流れを転換
2000年代初頭まで、日本で集められた多額の献金は透明な手続きのもとでUCIを通じ、世界各国の事業支援に使われていた。しかし、2009年後半、文鮮明氏の三男・文国進氏、七男・文亨進氏、そして金孝律氏らが中心となり、UCIへの資金送金を全面的に停止。日本からの献金を韓国の「宣教会財団(現・孝情グローバル財団)」へ直接送る新たなシステムを構築した。この財団はそれまで「眠っていた組織」と言われるほど活動がなく、いわばペーパーカンパニーのような存在だった。だが、一連の動きによって突如、年間数千億ウォン規模の資金が流れ込むようになったという。
■ 献金の使途:派手な支出と構造的腐敗
問題はその資金運用にあった。アメリカのUCIとは異なり、韓国側の新体制には資金管理の専門家がほとんどおらず、統制の効かない「放漫経営」が進行。資金は宗教活動というより、「見せるためのプロジェクト」に大量投下された。
代表例が清平(チョンピョン)の大規模施設群だ。「天苑宮」など新施設の建設をはじめ、レストラン、カフェ、イベントホールなどに巨額が投じられた。さらに国際イベントにも莫大な資金が使用され、一部では招待されたVIPに対し「数億~数十億ウォン単位の謝礼」が支払われたとの証言もある。もともと日本信者の「血と汗の献金」で成り立っていた資金であり、文会長(文顯進氏)に近い関係者は「努力もせず得た金を湯水のように使った」と批判する。
■ カジノ疑惑:韓鶴子総裁も「認めた」との証言
こうした中で、さらなる衝撃的な事実が浮上した。韓鶴子総裁が2009年前後にラスベガスでカジノを行っていたという疑惑である。関係者によると、特検調査で本人も「カジノをした」と認めたとされる。当時、教会幹部たちとともにカジノに通い、総額約600億ウォン規模の金額が使われたとの報道もある。この情報は最初に日本メディアが報じ、のちに韓国国会でも権性東議員が警察捜査中の事実を明らかにした。
■ 責任の所在:利用された「総裁」か、共謀した「側近」か
専門家らは、韓総裁が直接巨額の資金を動かしたとは考えにくいと指摘する。資金の送金や管理を担当したのは、当時の中枢にいた文国進理事長、文亨進会長、そして側近グループだったという。文会長側の証言では「一部側近たちが韓総裁を利用し、責任を総裁本人に押し付ける構図を作った」とされる。実際、韓総裁は現在、関連事件で拘束されているが、側近の鄭元周氏などは不起訴処分を受けており、その不均衡にも疑問の声が上がっている。
■ 背景にある「分裂の構図」
この一連の事件は単なる資金不正やスキャンダルではなく、統一教会の分裂過程そのものに深く関係している。文鮮明氏の死去を前に、後継者争いが激化し、組織内では権力と資金をめぐる確執が頂点に達した。内部関係者は「母である韓総裁を神格化し、取り巻きが権限を掌握するために暴走した」と語る。
■ 韓鶴子総裁「神格化」の構図
出演者たちは、現在の混乱の原因を「原則と価値を失った教団運営」にあると指摘した。文鮮明総裁の死去後、教団幹部は韓鶴子総裁を“独生女(神の唯一の娘)”として神格化し、教祖の教えにはなかった新たな神学的論理を構築したという。彼らは韓総裁を「文総裁よりも偉大」「霊的権威が上」と持ち上げ、徹底的にガスライティング(心理的支配)を行ってきた。こうした構図のもとで権力と資金が集中し、一部幹部は韓総裁の名を利用して巨額の資金を動かしてきたとされる。
■ 「毎年数千億ウォン規模資金」と政治への浸透
2009年以降、統一教関連の資金が日本から毎年数千億ウォン規模で韓国に流入していたという証言もある。2012年、文國進氏らが教団を離れた後、その資金の実質的な管理者は韓鶴子総裁、鄭元周氏、尹煐鎬氏の3人に限られていた。出演者は「まるで猫に魚を任せるようなもの」と揶揄し、「尹煐鎬氏は韓総裁を満足させ、自らの地位を守るために湯水のように資金を使った」と指摘。その金は政治資金にも使われた可能性があるとされ、実際に韓国政界への影響拡大を試みていた形跡もあるという。
■ 「後継者」たちの分裂と母子断絶
韓鶴子総裁の息子たちの間でも立場は大きく分かれている。かつて「自らが後継者」と主張した七男・文亨進氏は、母の逮捕を受け「天の呪いだ」と非難声明を出した。一方、三男・文顕進氏は「母を元の位置に戻したい」と語り、教団改革を訴えながらも沈黙を守ってきた。文顕進氏は、教団の権力構造から離れ、母が側近らに“利用されている”状況を憂慮してきたという。
■ 日本で進む「解散請求」裁判
日本では、安倍晋三元首相の銃撃事件を機に、旧統一教会の過剰な献金問題が社会問題化した。金慶孝(キム・ギョンホ)会長は「当時から、これは法人解散まで行くと予想していた」と語る。実際、現在は東京地方裁判所高等部で宗教法人解散請求訴訟が継続中であり、来年初めに最終判決が下る見通しだという。判決が一審と同様に「解散相当」となれば、教団は清算手続きに入る。
■ 文顕進氏の改革意識と「日本教会の献金システム」
金慶孝(キム・ギョンホ)会長によると、文顕進氏は2000年代初頭、後継者として発表された時期から、特に日本教会の構造的問題に強い危機感を抱いていたという。日本では、信者の過剰な献金体質が長年の課題とされてきたが、文氏はそれを「献金機械のような仕組み」と断じ、内部改革に着手した。当時、文氏は独自に監査チームを日本に派遣し、教会全体の資金運用や指導者層の不正を調査。その報告書を受け取った関係者は、「文氏が教会の不正構造を正そうとしていたことを初めて知った」と語った。しかし、この改革は教会上層部の激しい反発に遭い、文氏の試みは表面化することなく潰されたという。
■ 「献金」より「理想」 信者への直接指導
それでも文顕進氏は、2008年ごろまで毎年日本を訪れ、信者や若い二世らと面会を重ねた。同行した関係者によると、文氏は一切献金や金銭に関する話をせず、父・文鮮明総裁の理念や「神の理想家庭」という宗教的使命について語り続けたという。「文氏はいつも『金や地位ではなく理想を守れ』と説き、信者たちに希望を与えていた」と証言者は振り返る。もし文顕進氏の改革が、2009年以降も継続していたなら――。出演者たちは口を揃えて、「今日のような韓国・日本両教会の崩壊は起こらなかった」と語った。
■ 分裂から16年、残された者たちの「内省」
統一教会が分裂してから16年以上が経つ。趙仁範(チョ・インボム)副会長は、「この時間は私たちにとって“自分を見つめ直す期間”だった」と述懐する。文顕進氏もまた、「教団が制度化されすぎ、信仰の原点を失っていないか」を問い続けてきたという。「今の混乱は、隠されていた問題が表面化した必然の結果だ」と関係者は語る。分裂を通して、教団の内部腐敗、権力構造、そして信仰の空洞化といった「根本的な問題」があらわになった。
この危機を“再出発の機会”としようという声も少なくない。
■ 分裂の原因は「金と権力への執着」
金慶孝(キム・ギョンホ)会長は、分裂の原因を「金と権力への執着」にあると明言した。「金に関心のある人は金しか見えず、権力に関心のある人は権力しか見えない。結局、地位と財産に固執した人々が教団を堕落させた」と語る。対照的に、文顕進氏は「金も地位も関心がない人」だったと述べ、「父の信念と神への約束を命よりも大切にした」と強調した。そのために全てを失い、孤立しながらも15年以上、自らの信仰と使命を貫いてきたという。金慶孝(キム・ギョンホ)会長は聖書のヨセフの物語を引用し、「追放された息子が、最後には家族を救う」と語った。「今、教会の内部でも“希望は文顕進氏しかいない”という声が増えている」と述べ、文顕進氏を中心とした再建の兆しを示唆した。
■ 「信仰の本質」へ立ち返るとき
番組は最後に、「統一教会の未来をどう導くか」という問いで締めくくられた。出演者らは、「金や制度ではなく、全人類が共感できる理想の実現こそ本来の目的」と語り、再出発を呼びかけた。また、メディア側も「本番組は特定勢力の立場を代弁するものではない」と強調し、教団関係者や他の文家兄弟にも発言の場を開く意向を示した。
動画は以下より視聴できます。
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